エンターテインメント!な男たち

加藤シゲアキさんの著作は今4冊。渋谷サーガである「ピンクとグレー」「閃光スクランブル」「Burn.」そして短編集「傘をもたない蟻たちは」。エンターテインメント性に富んだ作品ですが、私は何より小説に出てくる男性陣の魅力を伝えたい!ということで、勝手に作品中のお気に入り男性陣を紹介していきたいと思います。

「ピンクとグレー」―絶望的に素晴らしいこの世界に僕は君と共にある。―
・河田大貴【欲しい物を欲しいと言えない自意識に苛まれる気にしい男子】

主人公。通称りばちゃん。父親の転勤で大阪から横浜へ。引越し当初は強がっていたが、徐々にごっちらと仲良しに。高校時代に真吾とバンドを組む。大学卒業後も真吾とともに始めたエキストラの仕事を続ける。―KADOKAWA「ピンクとグレー」公式サイト

普通にモテて、人並みに暮らしていけるだけのスペックはあるけれども、プライドと遠慮が邪魔をして真吾とは対照的な陰の存在。印象的な一文がこちら。

彼の涙が不足しないように、僕は自分の分も彼の涙に混ぜた。―「ピンクとグレー」

真吾は泣いているのに、自分は泣けない。小さな頃からそうだった。それでも、自分の居場所を探して東京渋谷で生きている。
最終的に親友の想いも全部背負って、真吾を演じていく姿は、圧倒的な主人公力を発揮している。しっかりしていて不器用で。できればあとほんのちょっと抜けている部分が欲しかった人。そして傍にいてくれる女の子もいて欲しかった。ひたすら孤独で友人への愛に溢れている。


・鈴木真吾【風に吹かれてどこかに行っちゃいそう…守ってあげなきゃ男子】 

通称ごっち。おとなしく姉思い。親達から「スタンド・バイ・ミー」と称される仲良し4人組のひとり。河田の親友。読者モデルから芸能界入り。ドラマや映画で活躍する若手スター「白木蓮吾」に成長。―KADOKAWA「ピンクとグレー」公式サイト

類い希なる才能で一気にスターダムを駆け上る。小さい頃はおっとりとしていてマイペース。傍に付いていてあげないと消えちゃいそうな刹那感を感じさせる不思議な青年。そんな彼はたくさんの人に愛される。でも一番信じているのは大貴だけ。彼女もいたけれど、大貴は特別。精神的な支柱が大貴だった。姉に大きな影響を受ける。

やらないなんてないから。―「ピンクとグレー」

お姉さんの台詞でもあり、真吾の座右の銘のようなもの。多くのことを語らず、何を考えているのか分からない。その気持ちは全て大貴を通じて描かれる。ミステリアスでかつまっさらで純粋な人。キラキラしていて寂しげでまるで柳のようなしなやかさと儚さを持つ。不思議な魅力のある人物です。


二人は本当に対照的であるからこそ、二人揃うとしっくりくる。しかし、大貴の嫉妬やプライドが邪魔をして二人は離れてしまう。再び出会った二人はかつてを懐かしみ、そして最期の時を迎える…。私は「りばちゃん」から見た「ごっち」が好きでした。

閃光スクランブル」―死んだように生きてる場合じゃない―
・高橋巧【悪い大人になりきれない、贖罪のダリアの葉を背負った哀しく優しい男】

カメラマンとしての志半ばで起きた妻の事故死をきっかけに人生が暗転。現在はゴシップカメラマンとカメラアシスタントの二重生活を送っている。―KADOKAWA閃光スクランブル」公式サイト

ゴシップを撮る度に背中にダリアの葉の入れ墨を彫る、モノクロ写真しか撮らない三十路過ぎの男やもめ。珈琲が好き。気だるげ。過去を引きずり、他人を必要以上に傍におかない。それでいて人に100%冷たくなれない不器用で優しい人物です。アイドルの亜希子に出会って変わっていきます。君に出会って世界が色を取り戻したを地で行く人物。後半なかなかのロマンチシズムを発揮します。私は加藤シゲアキ作品で一番好きな人物。

死んだように生きていた日々から脱却した彼の姿で物語は終わりを告げる。
「さよならオルフェウス」が物語の主題歌。まるでローマの休日のような逃避行。切なくて苦しくて生々しい中に、優しさとかわいらしさとロマンチックが散りばめられた物語でした。―再び、閃光スクランブルを読んだ。(過去日記)http://d.hatena.ne.jp/fumitan1205/20140405/1396683511

物語終盤の彼は憑きものが落ちたかのように、生き生きとしています。これぞ、ハッピーエンドなお話。ぜひご一読ください。また読みたくなった。


「Burn.-バーン-」―あの夏、抜け殻だった僕は彼らから心(ハート)を教わった―
・夏川レイジ【孤独な暗闇の中から一筋の光を見つけ出した迷い子】

演劇のアカデミー賞と言われる、ウィッカー演劇大賞を受賞した英国帰りの新進舞台演出家。少年時代は天才子役として人気を集めるが、家庭や学校ではいつも孤独で、本人はそれがあたり前のことと思っている。 ―KADOKAWA「Burn.-バーン-」公式サイトより

現代の賢い子どもたちはこんなふうに世界をちょっと穿って見るんだろうな。なにもかも冷めたような目で見つめる人形のような彼は、「親」ではなく、特別な大人たちにいろんんなことを教えてもらいます。芸能界という大人社会ではなくて、本当に野ざらしの外の世界。その世界のあぶれたようなでも熱い思いで生きている大人に生きる意味を教えてもらう。魂を燃やせ!と言われ、彼の目が生き生きと輝き始めます。彼の名前はレイジ。暗闇で所在なさげな子どもが一筋の光に導かれて生きていく。
レイジ アゲインスト ザ マシーン。怒りと非道。社会に対しての憤りを感じながら、彼はもがいて光に辿り着く。黎明を司るで黎司かな。

・徳さん【豪胆な江戸っ子気質で精一杯生きた嘘つきのような真摯な男】

渋谷・宮下公園に“トクハウス”を建てて生活しているホームレス。ホームレス仲間のリーダー的存在だが謎も多く、不思議な魅力を持っている。小学生のレイジと知り合い、冷えきった彼の心を開かせる。 ―KADOKAWA「Burn.-バーン-」公式サイトより

飄々としていて、嘘みたいにホントのことをするりと話す。小学生のレイジを子どもではなく一人の人間として接してくれる大事な存在。自分の仕事をしていて思うけれど、子ども扱いせずに接してくれる人の話はすごく素直に自分に入ってくるものです。レイジにとって頼もしい大人。
この徳さんの心の奥底には何が眠っていたんだろう。過去に自分の愛しい人を火事で亡くし、全てなくなった彼にはもう魂のみ。苦しみや悲しみを微塵も見せずに、ただただ気ままに豪快に生きて、ニカッと笑う徳さん。潔くってかっこいい。以下印象的な台詞。

「あぁ。魂ってのは燃料なのよ。長い人生の中でちょっとずつ燃やして、使い切った最後の燃えかすが二十一グラム。だから魂あんまり燃やせてないやつは、死に際もっと重いんじゃねぇのかな」 徳さんは自分の左胸をとんとんと叩いて、指先を擦り合わせ、そして手を開いた。―「Burn.」

そしてあの帯の台詞になるわけです。日本の文化って特に、細く長く生きるとか言われるけれど、この江戸っ子口調の徳さんの話を聞いていたら、やっぱりぶっ太く短くてもいいから、情熱を持って生きていきたいと思える。とっても頼もしい人です。

「傘をもたない蟻たちは」―無限の悲しみはどこまでも僕を埋め尽くす。―
から一部ピックアップ。
・市村(染色)【恋と芸術の狭間で悩める自意識高め美大男子】
まさに、サブカル男子です。一人の女の子に影響されて作風が変わる美大生。そしてその彼女に依存していく様もすごく生々しく切ない。コンプレックスをあっさりと凌駕する人間との恋は自分のむなしさを助長すると知っていても止められない想い。彼女を失うと同時に、自分のアイデンティティをも見失ってしまうこの人はさながらノルウェイの森の主人公に似ているなーと思いました。でもこういう男子は端から見ているとかわいい。

なのにどうして見えないのだろう。あの日々の色彩はいったいどこに行ってしまったのだろう。―「傘をもたない蟻たちは」(染色)

病んでるー!(賛美)

・純(にべもなくよるべもなく)【わかり合えないもどかしさに涙する危うい純粋男子(中学時代)】
この子は名前通り純粋で一番綺麗な子。友人の恋愛対象が男であることを理解できず、そんな自分を嫌悪する心優しい人物。海辺の田舎だからこそ密な人間関係の中で、友人を嫌悪してしまいそうな自分を追い詰めてしまう。これから愛とは恋とはを知る中学生の思春期まっただ中に、うだうだ悩む姿がいとおしい。何より、ものすごく絶望してしまっている所にお姉さん助けに行くから!といってしまいそうな庇護欲をかき立てられる人物。

「俺がケイスケを理解してやれなくて、ケイスケの苦しみをわかってあげられなくて、こんな風にしてケイスケを汚してしまって、俺が全部だめにしてしまったんだ」―「にべもなくよるべもなく」

理解できないといって泣くこんな子、正直現代にはいないほど優しくて危うい子です。

「傘をもたない蟻たちは」には、それぞれ主人公達は守ってあげたくなるような、今にも折れてしまいそうで、でも傷つきながら精一杯生きている愛おしい人物がたくさん出てきます。


という最後とって付けたようになってしまいましたが、私は巧さんが一番好きです。皆さんは誰がお気に入りですか?秋の夜長、まだ加藤シゲアキ作品を読んでいない人はどの人物について知りたいかという視点から本を選んでも面白いかもしれません!またまだたくさんいます。インターセプトの彼もなかなか素敵。ということで、シゲアキさんの生み出した不器用で愛おしいキャラクターたち楽しんで下さい。是非に!