『Burn.』読了感想

『Burn.』読みました。以下ネタバレ。感想というか覚え書き?自分で読み返して掃きだめみたいになっちゃったと反省。一応残しておく。ちなみに今回はネタバレ雑誌を読まずラジオも聞かずに読みました。
3作目は全ての人物が魅力的だった。というより、全ての人物に物語があった。主人公のレイジはもちろん、徳さん、ローズさん、奥さん、お母さん、ユウキさん、そして世々子さん。彼らの物語が錯綜して重なり合って1つの物語が編み出されていて、無理なくするりと回想と現実をいったりきたりできる。ストレスがほとんどなかった。

子役で爆発的な人気を博したレイジはあることがきっかけで演者の道を退き、現在は脚本家として脚光を浴びている。冒頭で彼が手がけた作品が賞を受賞するのだけれども、それが「ウィッカー演劇大賞」。そして受賞したレイジはウィッカーマンと称される。ウィッカーマンと聞いて思い出すのが、ニコラスケイジ主演でリメイクされた映画『ウィッカーマン』。女が支配している島に来た彼の末路が生々しく描かれていて、すごく後味悪かったのを思い出した。父と一緒に日曜洋画劇場かDVDかで観たような気がする。まさに生け贄。むしろこれが、レイジの空っぽになってしまった創作意欲を皮肉っているようで、いやに冷たく感じた。

このウィッカーマン。物語の終盤に社会的象徴として別の形として描かれて、この冒頭と終盤の受け取り方のギャップにまいった。うまい。

その伏線を回収していく重要人物がホームレスの徳さん。飄々としていて、嘘みたいにホントのことをするりと話す。小学生のレイジを子どもではなく一人の人間として接してくれる大事な存在。自分の仕事をしていて思うけれど、子ども扱いせずに接してくれる人の話はすごく素直に自分に入ってくるものなので、彼の言葉がレイジの心に染みわたっているのが分かった。この時代にこういう人に出会えるのはすごく素敵なことだなあ。私もそんな人いたかなあと昔を懐かしむこともしばしば。
この徳さんの心の奥底には何が眠っていたんだろう。と考える時に、帯にもある「レイジ、魂を燃やせよ。」過去に自分の愛しい人を火事で亡くし、全てなくなった彼にはもう魂のみ。苦しみや悲しみを微塵も見せずに、ただただ気ままに豪快に生きて、ニカッと笑う徳さん。こういう人生に潔い人がすごく魅力的にうつるなー。普段セコセコ生きているから尚更。

印象的な台詞が、魂の重さの話。魂は二十一グラムあるというところから、

「あぁ。魂ってのは燃料なのよ。長い人生の中でちょっとずつ燃やして、使い切った最後の燃えかすが二十一グラム。だから魂あんまり燃やせてないやつは、死に際もっと重いんじゃねぇのかな」

徳さんは自分の左胸をとんとんと叩いて、指先を擦り合わせ、そして手を開いた。

*1
そしてあの帯の台詞になるわけです。日本の文化って特に、細く長く生きるとか言われるけれど、この江戸っ子口調の徳さんの話を聞いていたら、やっぱりぶっ太く短くてもいいから、情熱を持って生きていきたい願望が。

それから、ドラッグクイーンのローズ。女装をしている方ですが、彼女のかっこよさも群を抜いている。二人の共通点は社会的にマイノリティーな存在であること。それでも、力強くしなやかで颯爽とした生き方をしていること。そんな彼らと接する中でレイジは生きていることを実感する。薔薇の花言葉は「情熱」。まさしく。
"レイジ アゲインスト ザ マシーン"歌手であり、rageは「怒り・憤怒」の意味。あとoutrageは「非道」とか道をそれること。うすら暗い名前だけど、社会的メッセージ性に溢れている名前だし、漢字で書くならtwitterでも呟いたけれど、黎明の黎に司るとかかな。暗闇を司る。今まで、感情の波が全くないような機械のような存在だった彼が、二人に出会ってそして初めて母に対して、「怒り」の心情を吐露する。ああ生きているな。ヒリヒリしているけれど、すごく喜ばしいことであり、子どもらしさが出てた。

少しずつ記憶を取り戻していき、封印していた温度が戻ってくると同時に彼の周りの人々との関係も動き出す。家族との絆。新しい命。彼を照らしてくれる存在。「灯」ちゃん。暖かい気持ちに包まれていく一方で、ローズはもうこの世にはいない。そしてレイジは20年前のもう一人の彼の最期を思い出す。

「魂を燃やせよ」というシグナル*2をレイジに残して、彼は突然燃えた。まるで残った魂を燃え尽きさせるように。彼は余っていた魂を二十一グラムにすべく行ったのか。ならなぜ今?それは彼がこれからの運命になんとなく予想がついていたからではないだろうか。魂燃え尽きるまで生きていくことができない未来が予想できたのではないだろうか。社会の不条理さに対しての一種の反抗ともとらえられるし、諦念さえも漂う。まさしく姿はウィッカーマン。現に彼の死から渋谷は変わってしまった。マイノリティーの声は拾ってもらえない。

そんな世界をレイジは自分が表現するフィールドで再現しようとする。20年前に置いてきた魂を再び宿して燃やす。

二十年前の自分に「ただいま」かな。そして忘れてしまった彼らに対しての「ただいま」。

『21グラム』という映画があるそうな。魂の重さからきた題名で3人の男女を巡る物語。そして生と死について描かれる。少し重なる部分があるようなないような。

青春小説というよりは、生きるということ。家族。社会。全てひっくるめられた作品でした。登場人物がかっこよかった。

*1:引用『Burn.』蝉の抜け殻 より

*2:引用部分